『ジャスミン研修会inエプタザール (PTNA Piano Step狛江地区) 』レポート
2009年11月21日, 11月22日 @エプタ・ザール
<記事担当:谷口賢記>
多喜先生との最初の出会いは2009年夏でした。
ワシントン国際ピアノフェスティバルのゲスト講師として訪米されていた多喜先生が、偶然我々が主催している音楽祭のことをお聞きになり、Bruce Hangenによる室内楽公開レッスンを見学にいらっしゃったのです。少しお話もさせていただき、教育における室内楽活動の重要性とその推進という点でとても共感する部分があり、その後、日本でもミーティングを重ね、今度は私がPTNAのピアノステップ(狛江地区)を見学させていただきました。その内容は大変すばらしいものでした。
今回、多喜靖美先生の「指導者もステージへ!」のコンセプトのもと開催されたジャスミンKOMAEステーションの二日間のプログラムを取材しました。
非常に内容の濃いもので、一日目は翌日の演奏会に向けたリハーサルやレッスンに加えて、様々なトピックのミニレクチャーも用意され、夜は『ピティナ・ピアノステップ狛江地区』のソロの部。二日目は同じく『ピティナ・ピアノステップ狛江地区』ですが、全日、非常に充実した室内楽演奏会として開催されました。以下は、一日目のミニレクチャーの内容や印象です。
「アンサンブルでレッスン革命!」(指導者:多喜靖美)
子供達にアンサンブルレッスンをする意義やその導入方法をピアノの指導者達へ向けてプレゼンテーション。実際に子供達にヴァイオリンやチェロは何で出来ているかから、楽器の構造、チューニング、音程を変える要素、弦特有の特殊な奏法などをとてもわかりやすく解説。オルゴールを弦楽器の本体に接触させて音を倍増させるなどのプレゼンテーションもあり、子供達は非常に興味をもって臨んでいました。また多喜先生はおなじみのブルグミュラーの「無邪気」にチェロのラインを加えることによってどのように曲が生まれ変わるかを実演されていました。普段生徒達がピアノのみで練習している曲に新たな意味付けを行う事によって、より想像力豊かに同じ曲に取り組んでもらうことが可能になる、という素晴らしいコーナーでした。
「おはなしとピアノ演奏」からのアプローチ(指導者:多喜靖美)
ヘンゼルとグレーテルなどの物語に、情景に合わせてお馴染みのクラッシックの曲をつけるというコーナー。対象は子供から大人までピアノの生徒さん達。実際にヘンゼルとグレーテルを山下彩さんが朗読、多喜先生がブルグミュラーからの曲を演奏というプレゼンテーションもありました。生徒のコーナーでは、音楽は多くは朗読の場面つなぎに利用されていました。クラスでは生徒達が物語に対して自分で曲を選ぶらしいです。これは一つの芸術の在り方だと納得させられ、ピアノだけでその曲を演奏する時にも想像力や表現力の向上という点で非常に活かされるのではないかと感じました。
「進化するソルフェージュ」(指導者:松本裕子)
こちらのコーナーの聴講者は生徒の親やピアノの指導者の方が多かったと感じました。聴音のトレーニングにおいて、音を聞き取るだけではなく、和声を感覚的にとらえることの重要性を強調しておられました。ピアノを演奏する時に感覚器としての目は、譜面を読み、手のポジションを見ることに使われているが、耳は和音のバランス、ダイナミクス、音の長さ、音のツブ、フレージング、音色など非常に多様な情報を取り入れる事ができ、これらは訓練によって磨かれるということがポイントでした。他にも、指で楽譜をなぞりながらの視唱を聴講者にも実際に行ってもらう事を通して脳科学の事にも話は及び、幼少期のリズム感トレーニング等の話もされていました。このコーナーは、テクニックのみにとらわれがちな日々の練習をいかにしてより充実したものにするかということを考えるきっかけになるのではと感じました。楽器に対してどのようなアクションをするのかだけではなく、その結果として紡ぎだされた音をフィードバックとして耳でよく聴くことによって演奏を修正していく事が理想であるというメッセージが感じられた。
松本あすかの「楽しい鍵盤ハーモニカ」(指導者松本あすか)
このコーナーはピアノを学ぶ過程に鍵盤ハーモニカ(メロディカ)を導入する事によって得られるメリットを強く感じさせるものでした。この楽器は鍵盤楽器に息を吹き込んで演奏するという構造上、演奏の際にブレスを意識せざるを得ず、それはピアノを演奏するときにも特にフレージングにおいて非常に役立つということでした。一般の聴衆は、演奏者のテクニックではなく、フレーズ感や歌に反応するということを演奏する側は忘れがちであるという言葉も印象的でした。ピアノの良い演奏とは、音と音の間に意味のある行間があること、フレージングが明確である事、そして和声のバランスがとれていること、の3つを挙げておられ、現在取り組んでいる曲を一度でも鍵盤ハーモニカで練習してみてはとの提言もありました。非常に興味深かったのは、ピアノ、弦楽器、管楽器、鍵盤ハーモニカの4つの楽器の特徴を表にして、それぞれの楽器の特性を比較していたところです。長い音に変化を付けられるか、音程、和音、運搬利便性、価格の5項目において比較がされ、総合では鍵盤ハーモニカがトップでした。
二日間をふまえた総括
弦楽器のプロの指導者達との室内楽のリハーサル、本番もすばらしいものでした。室内楽のコースは短期型と長期型の2つが用意されており、前者は本番前日に20分程度のリハが一度のみ、後者は10ヶ月ほど毎月最低一回の練習を重ねてきたグループであり、両者の違いは歴然としていました。しかし、出演者全員が室内楽経験を通して音楽的に成長する姿を目の当たりにして、室内楽の重要性と楽しさは十分に参加者の間で共有されていると感じました。一方で、アメリカに4年半滞在していた私にとっては、自己主張を尊重するアメリカ社会と和を大切にする日本文化との違いを感じることもありました。音楽においてはその両方が必要不可欠だと思います。この二日間のカリキュラムでは、理想的な音楽への取り組み方へのアドヴァイスがいろいろな形でちりばめられており、参加された方はこの企画をきっかけとして、とてもポジティブな音楽生活を送っていけることだと思います。最後に、「指導者もステージへ」というコンセプトについてですが、これは指導者同士の横のつながり、指導者と生徒の縦のつながり、そして生徒同士の横のつながりを作るという意味で、すばらしいと思います。
------------------------------------------------------------------------------《レポーター》谷口賢記(たにぐちまさのり)
追記:
私は2004年秋から2009年春まで、ボストンへチェロ留学をしていました。在学中より校外でのプロとしての活動も活発に行っておりましたが、2008年より毎夏、指揮者の友人である佐藤洋平氏とともに、母校であるボストン音楽院において
Youth & Muse Boston International Summer Music Festival(クリックするとHPへ飛びます)
という国際音楽祭を運営し始めました。
このプログラムは、私自身がボストン留学を通じて得る事ができた貴重な体験をもとに、各楽器のレッスンやマスタークラス、オーケストラとのコンチェルト演奏、指導者をメンバーに加えた室内楽リハーサルとその演奏会等の様々なカリキュラムの中で、多感な時期の子供達に音楽への取り組み方や楽しみ方を共有してもらうことを目標にしています。
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[谷口賢記プロフィール]
4歳にてピアノ、18歳にてチェロを始める。京都大学大学院理学研究科にて生物学を専攻し修士課程を修了。京都大学交響楽団での活動を通して、23歳の頃に音楽を専攻する
ことを決意。日本在住時は、特に関西方面において活発に活動し、大阪フィルハーモニー交響楽団をはじめとした関西の主要プロオケにエキストラプレーヤーとして頻繁に出演。
2003年には久石譲氏のPiano Stories 2003 ‘a Wish to the Moon’ にチェロアンサンブルメンバーとして参加し、全国ツアーを行った。
2004年秋にボストン音楽院へ留学後、チェロ演奏において音楽修士号を、さらに全額奨学生としてGraduate Performance Diplomaを修得した。在学中は特に室内楽を中心とした活動を活発に行い、数々の室内楽グループのうちの一つ、Three Colors TrioはCMFoNE第1
回国際室内楽コンクールで第1位に入賞し、2005年5月にニューヨークのカーネギーホールにて受賞者演奏を行った。同コンクールでは2008年にもParnassos String Quartetにて第2位に入賞している。一方、2004年にはBoston String Quartetを創始、クラシック音楽に限らず幅広いジャンル の演奏に取り組み、これまで4枚のアルバムをリリース、ロサンゼルスミュージックアワードやカーネギーホールにも出演し、2008年12月には「Xibus」全米ツアーを行った。さらにVuk
School of Grooveにてチェロ講師を務め、2007年秋よりBoston Philharmonic Orchestra及びAtlantic Symphony Orchestraの団員として幅広い活動を行った。2009年春より本拠地を東京に移しており、現在アメリカでの活動は、ボストン音楽院で2008年より毎年夏に開催されているYouth & Muse Boston International Summer Music Festivalの運営および指導者主任としての参加が中心となっている。最近では、2009年10月にアメリカのバッファローにてBoston Chamber Orchestraの団員としてMarcel Tyberg (1893-1944) のSextet (1932) の世界初演及び録音を行った。
これまでチェロを近藤浩志、Andrew Mark、Timothy Eddy、Natasha Brofskyの各氏に師事。室内楽をRoger Tapping、Bruce Hangen、Rhonda Rider、Patricia McCarty、Rictor Noren、Jonathan Cohler、Max Levinson、Jonathan Bass等に師事。



